Google は 2026 年 5 月、Google Marketing Live 2026 に先立つ公式発表として、Search・Shopping・Performance Max(以下 P-MAX)に向けた 3 つの AI 入札・予算管理機能を公開しました。
「キーワードを刻む」「日予算を毎日いじる」といった従来の手作業を、Google AI が直接引き受けに来た格好です。本記事では、Amazon・楽天・自社EC を運営しながら Shopping や P-MAX を運用している EC 事業者の皆さまに向けて、3 機能の中身と、現時点で準備しておきたい運用設計のポイントを整理します。
1. Google Marketing Live 2026 が示した「AIへの目標移譲」の流れ
今回 Google が公式ブログで打ち出したメッセージはシンプルです。Google 自身の言葉を借りるなら、「By seeing the whole picture, Google AI can better predict what works and optimize your performance.」(全体像を見ることで、Google AI は何が効くかをより正確に予測し、パフォーマンスを最適化できる)というものです。
ここで言う「全体像」は 3 つのレイヤーに分かれます。
- クエリ・オーディエンスの広がり(=Smart Bidding Exploration)
- 時間軸での需要の波(=Demand-led pacing)
- コンバージョン経路の前後関係(=Journey-aware bidding)
それぞれ別機能ですが、いずれも「広告主が手で詰めていた変数を、AI が自分で見渡して最適化する」という方向で揃っています。Google は併せて、すでに Search・Shopping・P-MAX へ展開済みの「Campaign total budgets(キャンペーン合計予算)」によって、手動での予算調整が平均 66% 削減された実績にも触れており、AI への移譲はすでに数値として効果が出始めている、という整理です。
EC 事業者の視点で読み替えるなら、「キャンペーン構造を細かく刻むほど成果が出る」という従来型のチューニングから、シグナル(コンバージョン定義・商品フィード・予算の大枠)を整えて AI に渡す運用へと、評価軸そのものが移っているということになります。
Google公式 @GoogleAds による発表ポスト(3新機能の概要)。
2. 機能1:Smart Bidding Exploration が P-MAX・Shopping に拡大
Smart Bidding Exploration は、目標 ROAS(または目標 CPA)に対して「許容範囲(tolerance)」を広げ、AI が普段は刈り取らないクエリやオーディエンスにも入札を試みる仕組みです。Search では既提供で、Google は「Search でこの機能を使うキャンペーンは、平均でコンバージョンに至るユニークユーザー数が 27% 増加した」と公表しています。
今回のアップデートで、この仕組みが 「商品フィードを伴う P-MAX」と Shopping キャンペーンに「数週間以内(in a few weeks)」ベータ展開される予定です。
EC 運用で重要なのは、「ターゲティングを変えずに、目標 ROAS の許容度だけを動かす」設計である点です。たとえば「目標 ROAS 600%」で頭打ちになっている Shopping キャンペーンに対して、許容度を広げることで、購買確度がやや低い未開拓クエリにも入札が走り、新規顧客が拾えるようになる、というのが期待される挙動です。
ただし、許容度を広げるほど短期 ROAS は揺れます。SKU や季節商品によっては、限界 ROAS の手前まで攻める意思決定そのものが必要になるため、運用側では「攻める SKU/守る SKU」の切り分けと、AI に渡す目標 ROAS の妥当性をあらかじめ決めておく必要があります。なお、Smart Bidding Exploration の機能名・仕様は Google 広告ヘルプの「ショッピング キャンペーンと P-MAX キャンペーンでスマート自動入札を効果的に使用する」でも整理されています。
3. 機能2:Demand-led pacing — 需要に追従する自動予算配分
Demand-led pacing は、Search・Shopping キャンペーンの日次支出を「需要ピーク日に厚く・閑散日に薄く」配分し直す機能です。重要なのは、月額予算と日次上限の枠は超えないことが Google から明記されている点で、いわば「総額・上限を守った上での再配分」になります。
展開は「今後数ヶ月内(in the coming months)」とされており、Search・Shopping キャンペーンが対象です。
この機能は、すでに Search・Shopping・P-MAX 等で利用可能な「キャンペーンの合計予算(Campaign total budgets)」と組み合わせる前提と読むと理解しやすくなります。Campaign total budgets は、特定期間の総予算をあらかじめ決めて運用する予算タイプで、日本でも対応キャンペーンタイプ向けに提供されています。
EC 事業者にとって相性が良いのは、ブラックフライデー、楽天スーパーセール期、ボーナス商戦、母の日のように需要に偏りのあるカテゴリです。これまでは「セール直前は日予算を 1.5 倍、終わったら戻す」を運用者が手作業でやっていましたが、Demand-led pacing は月内の需要曲線そのものに沿って AI が支出を寄せるため、設定の手数が減ります。一方で、月予算そのものが小さすぎると寄せ余地が出ないため、「月単位の総予算」と「日次上限」の二段構えで枠設計を見直すフェーズに入る点が、運用側の論点になります。
4. 機能3:Journey-aware bidding — 全接点を学習する入札(ベータ)
Journey-aware bidding は、Search キャンペーンで目標 CPA を使っている広告主向けのベータ機能です。Google は、リードが販売に至るまでの過程を AI が学習する際、「入札対象(biddable)」のコンバージョンだけでなく、入札非対象(non-biddable)のコンバージョン目標 — 電話、フォーム送信、ニュースレター登録など — も含めて全ステージを参照できるようにする、と説明しています。
EC 文脈ではリード獲得色が強い機能に見えますが、問い合わせ・資料請求・LINE 友だち追加・メルマガ登録などを「コンバージョン目標として計測しているが入札対象にはしていない」事業者にとっては、これらの中間接点が AI の学習材料に正式に組み込まれるという意味があります。とくに BtoB 寄りの卸売 EC や、定期購入・サブスク型 EC では、「最終購入のはるか前にニュースレター登録があった」というジャーニーが珍しくなく、こうした接点を学習に取り込めるかどうかは入札精度に直結します。
現時点ではベータ提供であり、一般提供日は明示されていません。2026 年 5 月 10 日時点で日本国内向けの個別提供スケジュールは Google 公式から公開されておらず、まずは目標 CPA で運用する Search キャンペーンの準備(後述)を整え、ベータ案内が来た段階で参加可否を判断する、という構えになります。
5. EC事業者がいま準備すべきこと(運用設計・計測整備・閾値設計)
3 機能のうち、Smart Bidding Exploration と Demand-led pacing は数週間〜数ヶ月内、Journey-aware bidding はベータ案内待ちというスケジュール感です。先回りして整えておきたいのは次の 3 点です。
(1) コンバージョンの再定義と「入札対象/非対象」の整理 Journey-aware bidding は、入札対象に含めていない補助コンバージョン(電話・フォーム・メルマガ登録など)を AI が学習に使う設計です。「いまコンバージョンとして計測しているが、入札対象から外しているもの」が漏れなく登録されているかを、Google 広告のコンバージョン設定画面で棚卸ししましょう。
(2) 月額予算・日次上限の二段設計 Demand-led pacing は月額予算と日次上限の中で動きます。これまで「日予算 × 30 日」で運用していた事業者は、「月額の総枠」と「日次の上限」を別々に決める運用へ移行する想定で、財務側との合意も含めて設計を見直す価値があります。Campaign total budgets を使えば、新規キャンペーン作成時に期間と総額を直接指定できます。
(3) 目標 ROAS/目標 CPA の「攻めライン」を決める Smart Bidding Exploration は許容度を動かすほど未開拓クエリに当たりに行きますが、ROAS は当然短期で揺れます。SKU 単位、もしくはアセットグループ単位で、「短期 ROAS をどこまで許容するか」をあらかじめ社内合意しておくことが、AI に意思決定を渡す前提になります。
6. まとめ:「AI への目標設定と評価」が運用担当者の主役業務になる
今回の 3 機能は、いずれも「広告主が AI に渡すシグナルの幅と深さ」を広げるアップデートです。EC 運用の現場で起きる変化を一言でまとめると、「キーワードと入札を毎日刻む仕事」から、「目標値・予算枠・コンバージョン定義を設計し、AI の出力を評価する仕事」への重心移動です。
特に Shopping・P-MAX を主戦場にしている EC 事業者にとって、Smart Bidding Exploration の P-MAX・Shopping への展開は、ここ数ヶ月で最初に体感する変化になります。まずは目標 ROAS と SKU 切り分け、コンバージョン計測の棚卸しから着手し、AI に「正しいゴール」を渡せる状態を作っておきたいところです。
出典・参考文献
- Google「Bidding and budgeting news from Google Marketing Live 2026」 https://blog.google/products/ads-commerce/bidding-budgeting-google-marketing-live-2026/
- Google 広告ヘルプ「ショッピング キャンペーンと P-MAX キャンペーンでスマート自動入札を効果的に使用する」 https://support.google.com/google-ads/answer/15624876?hl=ja