Amazon DSPがNetflix広告枠に本格進出 — 何が起きたのか
2025年9月、Amazon AdsとNetflixはプログラマティック広告における戦略的パートナーシップを発表しました。広告主はAmazon DSP(デマンドサイドプラットフォーム)を通じて、Netflixの広告付きプランの広告在庫に直接アクセスし、プログラマティックに広告を購入できるようになっています。
そして2026年3月4日、この提携がさらに深化しました。Netflixは自社広告プラットフォーム「Netflix Ads Suite」の機能拡張を発表し、Amazon DSP経由の配信において「Amazon Audiences」の活用が可能になると明らかにしました。これにより、Amazon上での購買行動データにもとづくオーディエンスセグメントを、Netflixの広告配信に適用できるようになります。
対象国は米国、英国、カナダ、日本、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、ブラジル、メキシコ、オーストラリアの11カ国です。Amazon Audiences機能は米国でQ2(2026年4〜6月)に開始され、その他の対象国へは2026年内に展開される予定です。
Amazon Audiencesとは?数兆のショッピングシグナルを広告に活かす仕組み
Netflix Ads Suite
Amazon Audiencesは、Amazonが保有する膨大なファーストパーティデータから構築されるオーディエンスセグメントです。その基盤となるのは「数兆規模のショッピング、ストリーミング、ブラウジングシグナル」であり、単なるデモグラフィック(年齢・性別)ではなく、実際の購買行動や商品検索履歴、閲覧パターンにもとづいた行動ベースのターゲティングが可能です。
具体的には、ライフスタイル、興味関心、そして「現在アクティブに購入を検討している商品カテゴリ」にもとづいてNetflixの視聴者にリーチできます。たとえば、スキンケア商品を販売するEC事業者であれば、Amazon上で美容・スキンケアカテゴリを頻繁に閲覧・購入しているユーザーに対して、Netflixの大画面でブランド認知を高める広告を配信する、といった活用が想定されます。
従来のDSPでは、Cookie依存のサードパーティデータや推定ベースのオーディエンスに頼らざるを得ないケースが多くありました。Amazon Audiencesはログイン状態のユーザーから得られる確定的なデータ(deterministic data)にもとづくため、ターゲティング精度において構造的な優位性があります。この点は、同時に発表されたYahoo DSPの「数億規模のYahooシグナル」による確定的オーディエンスデータとも共通する方向性です。
なぜAmazonはCTV広告に本気なのか — Netflix連携の戦略的意図
Amazonの広告事業は急成長を続けています。2025年通年の広告収入は686億ドルを超え、Q4単体では前年同期比23%増の213.2億ドルを記録しました。この成長を支える柱の一つがCTV広告です。
Amazonは自社でもPrime Videoの広告付きプランを2024年1月に開始し、Q4時点で3億1,500万人の広告対象視聴者を抱えています。さらにFire TV、Twitchといった自社メディアを持ち、米国CTV広告市場において10%超のシェアを確保しています。
2026年の米国CTV広告市場は約380億ドル規模に達すると予測されており、YouTube、Amazon、Disneyの3社が10%以上のシェアを持つ主要プレイヤーとされています。
Netflix連携の戦略的意図は、この自社メディア以外のプレミアム在庫へのリーチ拡大にあります。
Amazonは2025年にはRokuとも独占的パートナーシップを締結し、米国CTV世帯の推定80%超となる8,000万世帯への認証済みリーチを実現しました。
Netflix、Roku、Prime Videoを束ねることで、Amazon DSPは「購買データを持つ唯一のCTV広告プラットフォーム」としてのポジションを固めつつあります。
EC事業者にとっての意味は明確です。検索広告やスポンサープロダクト広告で獲得した顧客の購買データを、テレビ画面でのブランディング施策にシームレスに活用できるフルファネル広告基盤が整いつつあるということです。
Conversion APIとフルファネル測定 — Amazon広告主が得る新たな武器
今回の発表でもう一つ注目すべきは、Netflixが独自のConversion API(CAPI)を導入した点です。CAPIは、広告主のサーバーとNetflixのサーバーを直接接続するサーバー間通信のアトリビューション基盤であり、ブラウザ層の制約(Cookieの廃止やトラッキング防止機能)を回避して、正確なコンバージョン計測を実現します。
CTV広告はこれまで「ブランド認知には貢献するが、成果を定量的に測定しにくい」という課題を抱えていました。検索広告やソーシャル広告と比較して、視聴後の購買行動を追跡する手段が限られていたためです。IABが2025年10月に公表した調査レポート「The Role of Conversion API in Closing the Outcome Gap for CTV」によれば、Conversion APIを導入した広告主の3分の2がROAS(広告費用対効果)の改善を実感し、4分の3がコンバージョンデータにもとづく予算再配分に意欲を示しています。
Netflix CAPIはリアルタイムのコンバージョンシグナルを活用してキャンペーン配信を動的に最適化する設計とされており、単なる事後レポートではなく、配信中の改善に寄与する仕組みです。Amazon DSP経由でNetflixに広告を配信するEC事業者にとっては、Amazonの購買データによるターゲティングと、CAPIによる成果測定を組み合わせることで、「誰に見せたか」から「見せた結果どうなったか」までを一気通貫で把握できる可能性が開けます。
早期テストでベンチマーク比75%超 — 実績が示すポテンシャル
Netflixは、米国最大の独立系フルファネルマーケティングエージェンシーであるTinuitiと共同で、CAPIの早期テストを実施しました。その結果、金融サービス、EdTech(教育テクノロジー)、小売の3業種にわたるキャンペーンが「ベンチマークを75%以上上回るパフォーマンス」を達成したと発表されています。
75%超という数字の具体的な指標(CTR、コンバージョン率、CPAなど)は公開されていませんが、複数の業種で一貫して高い成果が出ている点は注目に値します。単一業種での好成績であれば特殊要因の可能性がありますが、金融・教育・小売という異なるカテゴリで横断的にベンチマークを超えたことは、プラットフォームとしての汎用的な広告効果を示唆しています。
また、Netflixの広告付きプランの月間アクティブ視聴者数(MAV)は全世界で1億9,000万人に達しており、Netflix自身も2026年の広告収入を前年比でおよそ倍増の30億ドルに引き上げる見通しを示しています(2025年の広告収入は約15億ドル)。広告在庫の拡大とターゲティング精度の向上が同時に進むことで、CTV広告の費用対効果はさらに改善していく可能性があります。
ただし、早期テストの結果はあくまで限定的な条件下でのものです。本格展開後の実績データが蓄積されるまでは、自社のカテゴリや予算規模での効果を慎重に見極める姿勢も必要です。
EC事業者が今から準備すべきこと — Amazon DSP活用の次の一手
Amazon DSP経由のNetflix広告配信は、日本を含む11カ国が対象に入っています。Amazon Audiences機能は米国Q2に先行開始され、日本での具体的な開始時期は2026年内とされていますが、詳細な日程は今後の発表を待つ必要があります。
EC事業者が今から取り組むべき準備として、以下の3点が挙げられます。
1. Amazon DSPアカウントの整備
Amazon DSPの利用には、マネージドサービス(Amazon側の担当者が運用)またはセルフサービスでのアカウント開設が必要です。すでにAmazonでスポンサープロダクト広告やスポンサーブランド広告を運用している事業者は、DSPへの拡張を検討する段階に来ています。Amazon DSPはAmazon所有メディア向けのプログラマティック保証型取引(PG)で手数料0%、サードパーティパブリッシャー(Netflix等)向けPGでも手数料1%というモデルを提供しており、他のDSP(The Trade Deskの約20%等)と比較してコスト面でのハードルが大幅に低くなっています。
2. オーディエンス戦略の設計
Amazon Audiencesを活用するには、自社の商品カテゴリに適したオーディエンスセグメントを選定する戦略が不可欠です。「自社商品の購入者」だけでなく、「競合カテゴリの閲覧者」や「関連ライフスタイルセグメント」など、ファネルの段階に応じたターゲティング設計を事前に検討しておくことが重要です。
3. CTV広告市場の動向把握
米国CTV広告市場は2026年に380億ドル規模、前年比約14%成長が見込まれています。日本のCTV広告市場も拡大傾向にあり、今後Amazon DSPを通じたCTV広告出稿の選択肢はさらに広がっていくと考えられます。まずは小規模なテスト配信から始め、自社カテゴリでの効果検証を積み重ねていくことが、本格展開時のスムーズな立ち上がりにつながります。
Amazonの購買データとNetflixのプレミアムな視聴環境が結びつくこの動きは、EC事業者にとってブランド認知から購買までをつなぐ新たな広告チャネルとなる可能性を秘めています。日本での本格展開に先立ち、情報収集とアカウント準備を進めておくことをお勧めします。
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